落語愛と故郷への想い抱き、二刀流目指す!

落語に魅せられた中学時代。落研の名門と衝撃の出会い
明治大学の落語研究会は「落研の名門」としてよく知られています。OBには人間国宝の五街道雲助(ごかいどう くもすけ)師匠、日本で一番チケットの取れない落語家の立川志の輔(たてかわ しのすけ)師匠のほか、三宅裕司さん、渡辺正行さんなど、多くの有名人を輩出しています。
僕は中学校時代に落語に出会いました。中学校に落語を教えに来てくれたのが、明治大学落語研究会のOBの和泉家志ん治(いずみや しんじ)さん。70歳くらいのほんわかしたおじいさんが「落語」を聞かせに来てくれたのです。
衝撃でした。落語は着物を着て座布団の上に正座して、あとは扇子と手拭いだけで全てを表現する。シンプルにシンプルを重ねたような話芸に感銘を受けました。
落語は口一つで全部を表現する。小難しい仕掛けや舞台もなにもいらないんです。それなのに、おしゃべりだけでゲラゲラ笑わせてくれる。
伝統芸能、なんて聞くと小難しいと思われるかもしれないですが、そんなことはありません。落語は元々「大衆芸能」なのです。つまり、いろんな層の人に楽しんで見聞きしてもらうために作られたものなのです。だから中学生の僕も理解して楽しめたんだと思います。
初めて聞いたのが『時そば』という演目。腹を抱えてゲラゲラ笑いました。そして和泉家志ん治さんの落語を見て、僕も落語家になりたいと思いました。
周囲を驚かせた大学受験。やっぱり明治がナンバーワン!
落語家には比較的学歴のある方が多いです。東大や京大を出てから噺家になる人も一定数います。だから落語家になるために、大学に行こうと決め、どうせ行くなら名門の落研に入ろうと決めました。
落語家になるために大学に入ったと言っても過言ではありません。僕に落語を教えてくれた志ん治さんと同じ明治大学の落語研究会に入ろうと心に決めたのが中学校三年生の時でした。
ありていに言えば、かなり珍しい人間だと思います(笑)。進学校の松本深志高校に進みましたから、周りが旧帝大や医学部医学科、私立なら早慶を第一志望にする中で一人だけ明治大学を第一志望にしていました。
担任には「信州大学を第一志望にしなさい」って言われて「嫌です!(笑)」って職員室で喧嘩になりましたね。いぃじゃないですか。僕にとっては、中学校時代から「やっぱり明治がNo.1」なんです。結果的に担任に逆らって心からよかったと思ってます。他の大学は一切併願せず、第一志望にしていた明治大学のみ受けたらちゃんと受かりました。
念願の明大落研へ。コロナ禍の苦悩と由緒ある名跡の襲名
なんとか明治大学に入り、落語研究会に入部しました。ところが不運にもコロナと重なって、ちゃんと活動ができるようになったのは大学三年生の頃からです。暗中模索の日々でした。落研に入って最初につけられた高座名が「和泉家わく珍(いずみや わくちん)」。ワクチンなんてひどい名前でしょ(笑)。ちなみに、僕のことが嫌いな人のことは「反ワクチン派」と呼んでおります(笑)。
わく珍じゃまずかろうってんで、落研で継がれてきた「紫紺亭志い朝(しこんてい しいちょう)」という名跡を襲名しました。この紫紺亭志い朝という名跡は4代目が三宅裕司さん、5代目が立川志の輔師匠、6代目が渡辺正行さんの名乗っていた名跡で、僕で22代目になります。志い朝は明大落研の最高名跡です。生半可な覚悟では継げません。
暖かい応援に支えられ、年間133席・新作落語30本書く
落語研究会の活動でしたが、手は一切抜きません。俺はプロになるんだ、これで食っていくんだ、という気持ちを常に持っていました。落研とて、遊びじゃないぞ、って力んじゃったりして。年間133席、アルバイトと授業をこなし、卒論を書きつつも落語にのめり込みました。133席は全国の落研のメンバーの中でも最多高座数だと思います。落語にのめり込んで留年するような不届きものではありませんよ(笑)。1年間で30本くらい新作落語を書きました。
133席もの高座をこなす中で、幾度となく明治大学の校友会・父母会の皆様に助けられました。高座機会をいただいたこともありましたし、わざわざ遠方まで応援に駆けつけてくださったこともありました。こうした校友・父母の方にたくさん応援していただき、本当に明治大学に入ってよかったなと思えました。
*新作落語「君はセゾン」で銀賞を受賞したときの映像(38:17~)
桂福丸杯受賞者の落語をイッキ見!<大学生落語選手権2024> より
https://www.youtube.com/watch?v=JsK9vuWwyd8
プロへの挑戦が始まる。「二刀流の落語家」として故郷に錦を飾る夢
これから入門し、プロの世界に入ります。厳しい世界です。落語家には階級がありまして、見習い、前座、二つ目、真打ち、そしてご臨終(笑)。この前座修行が見習いと合わせてだいたい5年。師匠のもとでみっちりと修行してきます。それが終われば二つ目、自分で会を開いたりできます。
僕の目指すのは、二刀流の落語家です。
元々ある古典落語もできる、自分で作った新作落語も面白い、そんな落語家になりたいです。特に新作落語は故郷の信州をテーマにしたものを作っていきたい。
実は、僕の生まれ故郷である長野県松本市出身の落語家はまだいません。松本市出身の落語家第一号として、故郷に錦を飾りたいです。いずれは長野県民なら誰でも知っている落語家になっていると思います。
気軽に楽しめる落語の世界、ぜひ足運んで。初心者も大歓迎!
もし、落語を聞いたことがない、という方はぜひ都内にある寄席(新宿末廣亭、浅草演芸ホール、上野鈴本、池袋演芸場)や、ホールで開催されている落語会に気軽に足を運んでみてください。
実はデートスポットとしても結構いいですよ。僕もよく女の子と寄席に行きました(笑)。映画より安いし、長くいられる。落語だけじゃなくて漫才や大神楽、マジック(寄席では奇術といいます)、紙切りなど、寄席ならではの芸も楽しめます。
初心者だから……と気後れする必要はありません。むしろ、初心者の方にも楽しんでもらえるような工夫がたくさんなされているのが「落語」です。歌舞伎なんかだとあらすじを確認したり、わからない言葉が出てきたり、みたいなこともありますが、落語は予習せずにふらっと立ち寄っても面白いです。
パジャマで行ってもいいんです。お弁当を持ち込んだりもできます。帰りに一杯飲むつもりで友達や恋人と出かけていくのもよし。それくらい気楽な場所です。
これから入門し、長い修行期間となりますが、ぜひご贔屓によろしくお願いします。
明治大学落語研究会OB会公式HP
https://www.meijiochiken.com/ob/index.html
MeijiNow
落語と文学を行き来する。総合学習の時間から始まった、落語家と作家への道|桑島直寛さん
https://meijinow.jp/activity/meijing/103739
2024年度
文学部卒
桑島 直寛